「それは大変だ。量より質って言葉もあるから、やっぱり愛しい人からのお祝いの言葉は聞きたいよね」

「そうですよね」

「うんうん、じゃあ行ってらっしゃい」

 ケイトはヒラヒラと手を振り天にどこかに行けとアピールする。話の流れからして、きっとそうなのだろうが何故今なのか。天は疑問に思い首を傾げる。

「ケイト先輩、一応聞きますけど。面白がってたりします?」

「いやだなぁ赤音くん。後輩思いの先輩に対して酷いよ、それは。ただ可愛い後輩の年一の生誕祭を悔いなく過ごしてほしいだけさ」

 ケイトはそう言うと「あ、そうそう」と嘘っぽい笑みを浮かべて話を続けた。

「剣道部は今日、道場のメンテナンスの日だから部活終わるの早いらしいよ。もうそろそろってところじゃないかな?」

「……先輩には負けますよ」

「なんのことかな?」

 そこまで把握していて、ケイトは天を誘導する。天も天で何やら気恥ずかしさはあるが、やはり葵からも何か祝いの言葉が欲しいとケイトの企み通りに部室を出た。
 天が行った後、一人になったケイトは呟いた。

「後輩想いのいい先輩だよねぇ俺」






 道場に着き扉から中を覗くと、そこには葵しかいなかった。他の部員は既にいない。これは好都合だと天は小さくガッツポーズをした。

「あ、赤音さん!どうしたんですか?」

 葵は素振りをしていたらしく、天に気がつくと中に入るように誘う。そして片付けをしつつ、天に近づいた。

「ごめんね、練習の邪魔しちゃって」

「大丈夫ですよ。もう終わりにするところでしたので。それよりも、何か用があるのでは?」

 葵は優しく微笑んで天の言葉を待つ。そんな穏やかな表情に天の心臓はドキッと跳ね上がる。

「用ってほどじゃないよ。ただ……実は、今日私の誕生日だから……」