天はケイトにお礼を言い、椅子に座ってスマホで作業を始める。しかしケイトの視線が気になって、天は作業が進まない。

「ケイト先輩?あのー何か?」

「いやね、最近の小説の展開から赤音くんにも春がきたのかなーと思ってね。文字は書き手の心情にリンクする。4月からこの12月までの期間、赤音くんの小説は素晴らしい展開をみせてくれてる。まるでノンフィクションなのでは?という感じにね」

 穏やかだが鋭い指摘をするケイトに天は苦笑した。書き始めた頃も同じような質問をされた。ごまかしたが、結局相手が実在しているとケイトは気づいているのだろう。

「いやだなケイト先輩。フィクションですよ。私の実力で妄想されてる世界です」

「そっかー。まあ俺が言うことは一つ。のめり込みすぎないようにだよ赤音くん」

 いつかのケイトからの言葉。あの時は必死に書き続けると宣言したが、今の天は少し違う。

「大丈夫です。必ずハッピーエンドにしてみせますから」

 ニッと口の端を上げて笑う。そんな天を見てケイトは少し驚き、嬉しそうに微笑んだ。

「いい顔するようになったね、赤音くん」

 ケイトはそう言い、鞄からある物を取り出して天に渡す。それはプレゼントだった。

「お誕生日おめでとう、赤音くん」


「うわぁ!ありがとうございます!ケイト先輩!」

「それでちょっと気になるんだけど、赤音くんの小説の主人公は想い人に誕生日を祝ってもらえそうかい?」

 ケイトの言葉に天は一瞬止まる。全てお見通しなのにあえて知らないフリをして聞いてくるからケイトという男は侮れない先輩だと天は思った。ここは話を合わせておくのがいいと考えて、天もあくまで小説の中の人物について聞かれたこととして返す。

「誕生日を伝えてないので無理そうですねぇ」