天は真っ直ぐに瑞穂を見る。その顔は迷いのない、覚悟を決めた顔。

「安岐くんの隣は、誰にも取られたくない」

 天は自分の素直な気持ちを伝えることができた。全て聞き終わった後、瑞穂は眉を下げて、微笑む。

「ええ、私わかっていましたよ」

「……え?」

「赤音先輩が安岐先輩を好きなことくらい最初から気づいてましたから」

「あ、そ、そうなんだ……」

 自信満々な瑞穂に天は恥ずかしくなる。周りは天が葵を好きだとなんでこうも気づいている者ばかりなのかと。そんな天を見て、瑞穂はいつもの可愛らしい、けれど少し意地悪な笑みを見せる。

「赤音先輩。またノロノロしてたら、今度こそ私が奪います」

 瑞穂はそれだけ言うと天の横を通りすぎる。その顔は寂しそうで、悲しそうだったが、どこか吹っ切れたような表情に天は思った。

 去り行く背中に何か声をかけてしまいそうな衝動にかられるが、いったい何を伝えたらいいのか天にはわからない。「また推し語りしようね」は違うし、「もう安岐くんに近寄らないで」も違う。
 天は瑞穂が嫌いではない。彼女は天にとって、初めてリアルで推しを語れる大切な“友人”なのだ。

「ーーっ瑞穂ちゃん!またね!」

 だから伝えるなら、未来の約束。お互いまたいつか、話をしようという願いをこめたもの。瑞穂は振り返らず、ヒラヒラと片手を上げて返事をした。

 その姿を天はジッと見送り、瑞穂とは反対の進むべき方向へ歩き出した。



 部室に着くと、そこには部長である先輩のケイトがいた。天に気づくとニコニコしてケイトは話しかけてくる。

「やぁ、赤音くん。最近の小説も順調そうだね。とくに、あの恋に気づいた主人公の葛藤がリアルで胸打たれるよ」

「また読んでくれたんですね。ありがとうございます」