伊丹は葵の嫉妬に狂った顔を想像して、苦笑いした。それを聞いた天は少し考え込む。

「……もしかして、誕生日ってことで何でもお願い聞いてくれるかな?お姫様抱っことか」

 真面目なのか冗談なのかわからない天のその言葉にリッカとエマと伊丹はため息をつく。そして、3人揃って言った。

「「「乙女か!」」」



 天は放課後文芸部の部室へ向かう。その途中で、瑞穂(みずほ)の姿を見つけた。あれ以来、瑞穂と接点がなかったからかすごく久しぶりな感じがすると天は思った。

 葵に対しての気持ちの変化を正直に話さなければと考えてはいたが、いざ切り出したところで「だから?」的な冷たい返しがきたら折れる心が。天は眉根を寄せて悩みつつ、唸る。すると、瑞穂が天に気づき目が合う。やばと逸らしてしまいそうなところをぐっと堪えて天は緊張から引き攣った笑みを浮かべ、瑞穂に挨拶をした。

「や、やぁ瑞穂ちゃん。久しぶり」

「お久しぶりです赤音先輩。最近剣道場にもいらっしゃらないので心配しました」

「あー……ちょっと、修学旅行やら期末テストが取り込んでて」

「忙しいですよねこの時期。私が先輩の分も安岐先輩を応援しますので大丈夫ですよ」

 瑞穂はニコニコと可愛らしい笑みを浮かべ、天も思わず頷きそうになった。しかし、違う。今回は流されない。天は瑞穂にちゃんと言おうと気合を入れる。

「ありがとう!でも、ちゃんと自分で応援に行くよ」

「あれ?それは、もしかして……」

 含み笑いをする瑞穂に天は大きく頷く。

「瑞穂ちゃん、私……私ね、安岐くんに恋してる」

 瑞穂が少し目を丸くした。天は伝えなきゃという必死な思いから、自分の気持ちを言葉にして紡ぐ。

「ずっと安岐くんのことは推しだからキュンってするし、たくさんの人にこのときめきを一緒に味わってほしいと思ってた。でも、もう違う」