さらっと言う葵。冗談なのかわからない声のトーンに天は一人焦る。

「いくら夜でも手なんか繋いでたら、即噂だよ?格好のネタ。あの安岐葵が手を繋いでる、女子と!誰?モブ顔のノッポ。ほらぁこんなんだもん世論の声!私はそんなの嫌だからね」

「そうですか?」

「そうだよ!安岐くんは変なところで思い切りがいいから困るよ。心臓に悪いんだから」

 天は少しだけ落ち着いて葵の方を向く。すると、そこにはむっとした表情の葵がいた。まるで幼い子のような表情が可愛いと天は思った。こう見えるのはやはり好きなんだと……

 そう考えて天はハッとする。まただ。自分は一体無闇に何を考えているんだ。意識すると思わず目を逸らしてしまうのに、好きが溢れてくるから厄介だった。

「赤音さんの考えでいうなら、俺の方があのチビは誰だ?隣の可愛い女子と釣り合わないって言われますよ」

 突如、葵がそう呟く。天は開いた口が塞がらない。葵は少し怒っているようにもみえたが、そんな態度に構わず訂正する。

「可愛いって……何言ってんの?そもそも安岐くんがそんなこと言われるわけないじゃん。言われるのは私だけ」

「どうでしょう?気にしているのは赤音さんだけかもしれませんよ」

「……どーいう意味?」

 天は葵を見つめる。気づけば、目を逸らさずにいることができた。葵は淡々と考えを述べる。

「赤音さんはよく周りを気にしていますが、それで自分をわざわざ卑下して下にして追い込まなくていいと思います」

「……」

「赤音さんは以前、兄とのことで悩んでいた俺に、俺のことが一番だと言ってくれましたね。あの時、本当にうれしかったんです」


 静かな浜辺に葵の声がよく通る。天は葵が言う日の事を思い出して、あの時の自分の言動に少し恥ずかしくなった。しかし、葵は気にせずどんどん言葉を紡いでいく。