そうである。天は葵のことを好きと自覚してから、変に意識しすぎて、顔を合わせられなくなってしまっているのだ。クラスは葵とは違うので一日顔を見ない日もあるくらいだ。

 そんな天をリッカとエマは呆れながらも、見捨てないでいてくれている。それは本当に有り難いと天は思うのだった。

「まあ、あんまり気にしてもね。今はせっかくの旅行なんだし楽しもうよ」

「そうだよ、そう!」

「まったく……まあ確かにね」

 エマと天にリッカも同意し、その後も3人は海を満喫した。



 コテージへ荷物をおき、食堂に行き全員で夕飯を食べて消灯まで自由行動の夜の時間。天は自販機で飲み物を買う。もう明日で帰るのかーと少しの寂しさを感じながら、葵はどうしてるのかと探す。

「あ」

 視界に入ったのは葵だった。葵もこちらに気づいたようで天に近づいてきた。

「こんばんは赤音さん」

「っあ、……やほー安岐くん」

 どこかに隠れたかったが天は間に合わず、なんとか葵に返事をした。目を合わせられない。葵もきっと気づいている。天は無性に恥ずかしくなり「じゃあ、行くね」と足早に立ち去ろうとした。

「赤音さん。ちょっと俺と歩きませんか?」

 しかし、それは葵によって阻止される。誘われた嬉しさから天は思わず「うん」と即答した。その後にやらかしたと気づくがもう遅い。

「じゃあ、行きましょうか」

 天は隣の葵の存在を意識しながら、絶対にそちらは向けないなと、まっすぐ前を見て歩く。

 しばらく歩くと昼間にきたビーチについた。昼間と違い夜の海は、月明かりが照らし神秘的で何だか少し怖い。天は隣の葵をチラッと横目で見つつ、この静寂の時間に吸い込まれそうな、そんな気がして、気を紛らわすために口を開く。

「波の音がよく聞こえるね」

「そうですね。暗くて危ないですから手でも繋ぎましょうか?」

「へ?いやいやいや!?」