「そうなんですね」

「……うん」

 沈黙が流れる。天は葵とどんな顔をして会えばいいのかと不安になる。呆れられるだろうか?嫌われてしまうだろうか?そんな感情ばかりが過って心が追い付かない。

 そんな天を見かねてなのか、葵は天の手を掴み顔を隠すのをやめさせた。泣き顔の天に葵は微笑み、そのまま至近距離で言葉を告げる。

「俺が離れるわけないやん。何不安になっとるか知らんけど、勝手に一緒におれんとか決めつけんといて?」

 葵は一段と優しい声色で天に言う。見つめる眼差し、触れる手の温度。いとも簡単に天の鼓動が跳ねた。

「俺は今まで通り赤音さんと話したいし、一緒におりたい。赤音さんは、それでもあかん?」

 葵は天の手を優しく握りしめて言う。真っ直ぐ見つめられる視線に、天は目を背けたくなるのをグッと堪えた。この目を見るとすべて見透かされそうで怖いと思う。それでも今の天には、その純粋さが救いだった。

「でも……私……」

「赤音さんに泣かれたら、悲しなるわ。だからそないに泣かんといて」

 そう言って葵はハンカチを取り出し天の涙を拭う。優しい手つきが心地いい。ああ、ずっとこうしていて欲しいと天は思った。


 この顔も、この声も、この手も全て自分だけに向けてほしい。他の人になんか知られたくない。教えたくもない。天の中でそんな独りよがりな感情が芽生える。

「笑ってや、赤音さん」

「……うん」

「ん、その笑顔。めっちゃ可愛い」

 天の笑顔は泣いた後でお世辞にも可愛いなどとは言えないはずなのに、葵は愛おしそうに微笑む。それだけで天の胸がキュンとした。このキュンをみんなと共有したい、ネタにして小説に書きたいとは、今の天には到底思えない。

 ーーああ、やっぱりこれが独占。

 ーー私は安岐くんに恋をしている。

 天はそう、自覚した。