放課後になり、天は剣道場へと向かう。葵に会って、ちゃんと話がしたい。この気持ちがネガティブな気持ちで変わらない内に、天は行動したいと思えた。そうでないとだめな気がしたのだ。

 剣道場について、中に入ろうか迷ったが、なんだかいきなり見に来ました!となるのは恥ずかしいので、こっそりといつもの定位置の窓から天は中を覗く。

 そこには稽古をする葵とそれを見つめる瑞穂がいた。瑞穂は熱い視線で葵を見つめる。その横顔がとても綺麗で天は見とれる。

 二人はずっと無言だったが、突然瑞穂が口を開いた。

「安岐先輩って本当に素敵ですよね」

「……はい?ありがとう、ございます」

 葵は少し間を置いて返事をする。静かだからか、外にいる天にも二人の会話は聞こえた。瑞穂の眼差しは熱っぽくて、それが妙に色っぽいと天の目には映る。こんな目で葵が見られていたなんて知らなかったし、正直辛いなと思う。
 前までなら、ただすごいなとかこれはネタになるとかそんな事を思った。けれど自分の気持ちを再確認できたからなのか、嫌だと感じる。

 そこまで考えて、天は思わず窓から身を隠した。天から見た二人はやっぱりお似合いだなと思えた。
 あんな可愛い子が好きになってくれるなら、どんな人もうれしくなる。自分なんか勝ち目もない。好きになってもらえる自信もない。

「……っ」

 天はそう結論づけて、逃げるようにその場から立ち去った。


 走って、中庭の水道裏の死角に座り込み顔を俯かせて隠す天。先程見た葵と瑞穂の映像が頭の中で繰り返し流れる。
 瑞穂は葵に恋しているんだと天は確信する。思えば最初から素振りはあった。それに気づこうとせず、鈍すぎた己を天は恥じる。

 何が推し仲間だ、何が同志だ。自分の気持ちに気づかずに過ごした結果が、今の現状。瑞穂に葵が笑いかけるのが、たまらなく嫌だった。一緒に帰るのも、自分だけがよかった。底の方からドス黒い感情が湧き出してくる。