「そう、ですよね。私勝手に嫌われてるかもなんて思って恥ずかしいです。二人の時もたくさん優しくしてくれてるのに……」

 瑞穂はいつもの笑顔を浮かべていた。天はほっとしつつ瑞穂の言った“二人の時”と言う言葉が気になる。それは部活終わりの駅までの帰りのことを指しているのか、また別の時のことなのか。

「剣舞の最後のあれも、私だったら周りから何か言われるかもって気遣ってくださったんですよね。赤音先輩は大丈夫でしたか?何か言われました?」

「へ?いや、とくに……」

「赤音先輩は安岐先輩とはそーいう関係にならないってみんなわかってるんですね。よかったです!推してるだけなのに、そんな恋愛みたいなの絡められたら困りますよね」

 考える天に追い討ちをかけるように瑞穂は言葉を紡ぐ。天は何も返せなかった。ただ、瑞穂とは違うというのを突きつけられたのはわかった。


「私もあんまり安岐先輩の近くにいって周りから何か言われたら怖いですけど。でもこの気持ちは止められませんし。これからも安岐先輩を一緒に推しましょうね、赤音先輩」

 そう言って瑞穂は天の横を通り過ぎていく。天はその背中に何も言えなかった。ある種の牽制をされ、言いたい放題言われてるのに。自分がすごく下に見られたような気がして、文句の一つでも言ってやろうかとさえ思う。そんな権利などないのに……瑞穂に言われた言葉が何故か胸に刺さる。

 葵とは決して恋愛関係なんかにならないだろうと、決めつけられていることに、天はただただモヤモヤした。