そんな天に声がかかった。声の主は瑞穂(みずほ)だった。正直、今はあまり会いたくない人物だ。だって、なんだか気まずい。別にどちらも何も悪いことなどしてないのに。

「……瑞穂ちゃん」

 無視するわけにもいかないので、天は振り返る。瑞穂は特にいつもと変わらないニコニコとした表情だった。

「こないだの文化祭の剣舞、安岐先輩すごかったですよね!私毎日練習見に行くくらいもお、ハマっちゃって!でも、あんなに練習をみてたのに、本番であんなことするなんて……すっごい意外でした」

 瑞穂が少しトーンを下げて言う。天を見る目が笑顔なのに、なんだか怖い。

「ええ?全部かっこよかったと思うけど……でも瑞穂ちゃん毎日見学に行ってたなんてすごいね!ガチファンじゃん!でもそうだよね、推しへの愛は絶大だもんねわかるっ」

 天は瑞穂の雰囲気に気づかないフリをして明るく返す。
 すると瑞穂は怖い笑みを貼り付けたまま、言葉を返した。

「そうですよ?誰よりも安岐先輩を一番推してるんです」

 その言葉に一瞬の沈黙が訪れる。なんだか不穏な空気に天はたじろぐがすぐに持ち直す。

「あ、そうなんだ……それは嬉しいなぁ。うん!私も安岐くんのこと推してるし。こうやって語れるの楽しいよね」

「でも私……安岐先輩には嫌われてるみたいで……」

「……へ?」

 突然の話の展開に天は思わず間抜けな声が出る。瑞穂は眉を下げて悲しそうな顔をしていた。大抵の男ならば守ってあげたくなるような表情。

「だから、きっと見学も迷惑だったのかなって」

「そんなことないよ!安岐くんは応援してくれる人を嫌ったりはしないと思う」

 天は瑞穂を励ます。本当にそう思っていたから、それを瑞穂にもわかってほしくて続けた。

「安岐くんは優しいし紳士的だって瑞穂ちゃんも言ってたじゃん。だから、大丈夫だよ」