「あれはパフォーマンスでしょ。盛り上げるための。他の女子だと騒ぎになるから、当たり障りのない赤音ちゃんにお願いしたんだよね?」

「じゃなきゃ、わざわざ選ばないでしょ。安岐ちゃんより背が高い女子なんてさ。並んだ時のバランスよ」

 女子達が葵を見る。その目は悪意はないが、おかしそうに笑っていて、葵は薄く笑みを浮かべる。それはとても冷たい笑み。

「うわっ女子ひでぇ」

「まあ、俺もあれはないかな」

「誰も狙わないから競争率低いんじゃね?おまえ絡んでみろよ。反応は乙女かもよ?」

 男子もバカにするように笑う。葵はただただ、ここに天がいなくてよかったとそう思った。

「俺は赤音さんは十分魅力的にみえます。俺にはもったいないくらいに」

 その言葉は静かにクラスに響いた。ここで天が可愛いとかいう類の女子なら葵の公開告白などと大騒ぎになるのだろう。だがみんなは相手が天だからか、ただ単に葵が庇っただけと捉えた。

「安岐ちゃん優しいね」

「人それぞれ好みは違うもんね」

 葵の言葉に肯定も否定もしない女子達。男子も馬鹿騒ぎをやめて別の話題に移る。

 話がそれたことに安堵し、天が聞いていたら、どういう意味だと詰め寄っていたことだろうと葵は思った。もしかしたらキュンのセリフ、ネタになるとでも言ったのかもしれない。天のリアクションを想像するだけで葵は口元が緩む。



 その頃天は無駄に廊下を行ったり来たりしていた。明らかな不審者である。こんなぐるぐるした気持ちを面倒に思いつつ、どうすれば解消されるかもわからない。

 いっそ葵のことを好きになればいいのか?でも恋愛の好きはよくわからないし……と天はウダウダと歩き回る。

「赤音先輩」