「それ、前に貸さなかった?」

「俺が読むんじゃない。写真を撮るだけだ」

 そう言いながら漫画の表紙の写真をとる空語に天は益々不思議そうにする。その視線を察したのか空語は淡々と理由を話した。

「おすすめの漫画教えろってうるさい奴がいるんだよ。だから俺はわざわざこんな労働をしている」

「へぇ……誰?」

「静」

 天はその名前を聞いて目を丸くして驚いた。静とは葵の兄。文化祭で空語と一悶着起こして二人揃って退場していった記憶は未だに新しい。

「そんなに急に仲良しになったの?」

「ふざけるな仲良しじゃない。俺はあいつがお願いするから仕方なく教えてやってるだけだ」

 文句を言いつつやってあげる空語に天は苦笑いした。もう大阪に戻ったであろう静とこうして連絡をとっているのだから気は許しているのだろうなと天は思う。

「静さんが漫画か、イメージわかない」

 天はクッションを抱きかかえつつ空語を見る。すると空語は一呼吸おいて答えた。

「……あいつは……意外とノリのいい奴だ。人の全ては一面だけじゃ語れないからな」

「……誰でも?安岐くんも、まだ私が知らない顔があるのかな」

「そりゃそうだろ。おまえもおまえの推しの葵とかいうチビもまだお互い見えてない部分があるもんだ。だから話したり、関わって擦り合わせるんだろ?」

 その言葉に天は少し驚いた顔をする。その顔を見て空語は舌打ちをした。

「……何語らせんだクソガキめ。俺は寝る」

 そう言い残して空語は部屋を出ていった。天は今の言葉をよく考える。葵の見えてない部分、そこに自分のことを想う理由があるのかなと。

 天は今まで書いてアップしてきた小説を軽く見直す。内容は天が葵と関わって経験したもの。読者はいつもキュンだとか早くくっつけだとかコメントをしていた。傍から見てもそういう認識なのだと天は思い直す。