夜遅く、(そら)は自室でベッドを背にして寄りかかりつつスマホで小説を書いていた。最近の出来事を思い出しながら、一つひとつ丁寧に文字を繋げる。
 そして、ふと手を止めて思う。

「なんで安岐くんはあんなに私に想ってくれるんだろう」

 口に出してから、ん?と天は思った。葵に想いを寄せられるのは嫌なのだろうか?いや、そうではない。ただ不思議だったのだ。

「だって私……安岐くんに何もしてあげてないのに」

 そうなのだ。天は今まで葵に何かしてあげたことなどない。むしろいつも助けられてばかりいる。なのになぜ?こんな背が高いだけの可愛くも美人でもない女を?と疑問に思ったのだ。

 隣に連れて歩くなら絶対にもっと可愛い子が他にたくさんいる。葵の周りはファンの子もいるし、それに……瑞穂もいる。

 それなのに、葵はあの日天を選んだ。文化祭の剣舞、跪いてこちらを見つめる葵の視線を天は覚えている。

「……っ」

 あの時のことを思い出して、天の顔が真っ赤になる。思わず両手で顔を覆うも熱は引くどころか、さらに顔が熱くなる。それは胸も同様だ。ドキドキが止まらない。こんなこと今までなかった。ここ最近いつも葵のことを考えると胸の辺りが締め付けられる感覚で苦しかったのに、今はそれ以上に胸が高鳴って苦しいのだ。

「安岐くん……私……」

 呟くようにそう言ったときだった。部屋のドアがノックされて兄の空語(くうご)が入ってくる。

「おい、我が妹……おまえ何してんだ?」

 天は思わずクッションで顔を隠して、土下座のポーズでいる。怪訝そうに空語はしつつもズカズカと部屋の中に入り天の漫画を勝手に持ち出す。

「ちょっと、泥棒」

「ふざけたことを言うな。おまえの物は俺の物だ」

 いつもの如く、自分勝手な空語に天はため息を吐いて、ようやく熱の引いた顔を上げる。そこで、空語が手に持つ漫画を見て首を傾げた。