天は自分の矛盾に気づいていた。キュンはみんなと共有するから楽しいとそう思っていた。だから、今見ているこの光景も小説にアップすれば多くの読者を魅了する。それなのに、天は初めて……この光景を自分だけで楽しみたいとそう思ったのだ。

 曲が変わると、演目中にメンバーそれぞれが観客に近づいてきた。最前列にいる人に手が届きそうな距離まできた彼らは個々に剣舞をアピールする。

 それは葵も同じ。葵は天の前にやってきて、その剣舞を天に捧げる。

「っ!……安岐くん」

 葵の本気さに天は胸が締め付けられる思いだった。どうしてこんなに想ってくれるのか。どうして?とそんな思いが渦巻くも、言葉に出来ないままただ見つめ返すことしか出来ないでいた。
 すると曲が再び変わり天はハッとする。これはエンディングだ。だから、この演目はここで終わるはず。なのに葵はまだ天の前を離れず、その場に跪いて天の手を握っていた。

「安岐くん……」

 天はたまらず葵に声をかける。すると、葵は天の手の甲に触れるか触れないかギリギリまで唇を近づけ、そのままゆっくり顔をあげた。

 それはとても優しい、けれど熱のこもった眼差し。天はそんな葵を見ていられず思わず視線をそらした。

「赤音さん」


 葵が天を呼ぶ。しかし天は何も言えずにただ俯くばかり。

「俺から、目を逸らさないでください」

 そんな天に葵は静かに告げた。その言葉に天はハッとなる。そして、ようやく顔をあげた。目と目が合う。葵は微笑んで、ゆっくり手を離すとメンバーと共に中央へ戻る。そこで音楽が止まり、剣舞が終了した。

「ありがとうございました!以上を持ちまして終了といたします。剣道に興味を持たれた方、ぜひ剣道部へ入部してください!」

 伊丹が最後に観客を一笑いさせ、会場内は拍手に包まれてた。