葵の最後の声はぼそっと呟いたものだったが、静や天、ついでに空語にはバッチリ聞こえていた。静は葵がガチギレする前に退散すべく、空語の腕を取る。当然空語は文句を言った。

「おい!なんで俺の腕をつかむ。離せ!」

「アホ。俺らがここおったら邪魔になんねん。空気よめやボケ」

「ボケってなんだ!」

「天ちゃんまた今度ゆっくり話そなぁ。葵も頑張りー」

「おい!聞いてるのか!」

 静はそのまま空語を連れて去っていった。

「すみません、うちの兄が」

「ううん。うちの兄もごめんね。相変わらずなの、うちのお兄ちゃんは」

 葵の謝罪に天は苦笑いで答えた。ふと、天は葵の服装をみる。制服にエプロンをつけて店番をしているような感じだ。

「安岐くん、忙しそうだね」

「ああ……まあ今は当番ですから」

 そういいながら葵はクラスの方を見て言った。

「見ます?」

「うん!見たい!」

 天が嬉しそうに答えるので葵も喜ぶ。そのまま葵の案内で縁日を見て回った。

「すごい。小規模なのに楽しいね」

「クラスの皆さんが工夫されましたから。俺は全然手伝えず、こうして当日頑張っています」

「そっか、剣舞があるもんね」

 天の言葉に葵は頷く。

「もうそろそろ剣舞なので当番をやめて移動するんです。赤音さん、見にきてくれますか?」

 葵の誘いに天は嬉しくて即答しようとした。しかし、瑞穂のことが頭に浮かぶ。同時に前に感じたものと同じようなネガティブな思考になり、思わず天は自分の手をぎゅっと強く握ってしまった。まるで何かを耐えるように。

「えっと……」

「赤音さん。前に言いましたよね?俺から逃げないでって」

 天はハッとして葵の顔を見る。目が合うと葵は微笑む。


「俺が赤音さんに見てほしいんです。他の人は関係ありません。赤音さん、一緒に行きましょう」