しかしなかなか足が進まない。せっかくリッカや伊丹が背中を押してくれたうえに、ここまで来たのだから行くべきだと頭では思うのだが……いかんせん自分がいるべきではない気がしていた。

 文化祭という特別な日を自分みたいな陰キャが邪魔したくないし、もしそこに瑞穂がいて、何か特別なものを見せつけられたらきっと傷つく。そんな気がしてならなかった。

 ……なんで傷つくのだろう?と天は自分で悩みつつ首を傾げた。もともとそばにいたのが不思議だったくらいなのに、葵が優しいから天はいろいろ勘違いしたんだなと思い始める。しばらくキュンが提供されないのは困るが、これが普通だ仕方ない。
 そう、受け入れて天は頷く。そして、今葵のクラスに行くのは控えたいなと益々思えてきた。

「……やっぱり帰ろうかな」

「あれ?天ちゃんやん。こないなとろで会えるなんてなぁ。自分一人?」

「あ、静さん」

 現れたのは葵の兄の静だった。スラリとスタイルがいいからか少し目立つ。静はニコニコしながら天に話しかけてきた。

「あれ以来やったから、めっちゃ会いたかったんやで?元気しとった?」

「はい。元気……してました」

 一瞬葵のことが頭をよぎり変な間を開けてしまったが天は何とか誤魔化す。だが静にはお見通しだったようで頭をくしゃくしゃと撫でてきた。

「天ちゃんほんま嘘つくの下手やなぁ。葵と何かあったん?」

 笑顔なのに鋭い静に天はぎくっとたが、これは自分の問題なので何も言えない。1人で勝手にモヤっとしてるだけなのだから。

「なんにも、ありませんよ」

「ほんまか?天ちゃんのことならなんでもわかるで。ほれ、未来のお兄ちゃんに話してみい?」