伊丹が興味深そうに尋ねると天は今朝の兄とのやりとりを話し出した。


『おい、今日行くからな』

『なんで?』

『明日は先約がある。今日しかない』

『わざわざ妹の文化祭こなくていいよ』

『なぜおまえに決めつけられなければならん。俺は行くぞ』

『ええええ普通当日いう?』

『仕方ないだろう!明日はニチアサタイムだぞ!』

『知らんわっ!』

 天が上記のようなことを声真似をしつつ伝えるとリッカと伊丹は苦笑いした。

「いや、お兄さんすごいな」

「でしょ。人の話聞かないし、強引だし、横暴だし……あー身を隠さなければならない」

 天が半分冗談で言えば伊丹が何やら考えて閃いた様子で笑顔を向けてくる。

「葵のクラスを見に行けば?」

「え、なんでよ」

「葵も喜ぶだろし?ここんとこ部活見学もきてないからあんまり話してないだろ?」

 伊丹の気遣いは今の天にとっては地獄への切符。天は瑞穂と葵のことが頭に浮かび、こんなわけのわからない気持ちのまま葵を見に行くのは……と躊躇っていた。

「そうだなあ、なんか行きづらくてさ」

 苦笑いしながら天が言うとリッカは呆れ顔で言った。

「あんたは変なところで考えすぎるのよ。それが悪いとは言わないけど、それで余計こじらせるなら行動しなさい」

「そうなんだけどさぁ……なんていうか、見に行って邪魔したくないというか……」 

 何の邪魔とは詳しく言わなかった。否、言えなかった。俯く天にリッカはため息を吐く。それでもせっかく伊丹が気を使ってくれたのだから行くべきだと天の背中を強引に押してクラスの外へと放り出した。

「あんたはもっと素直に単純になりなさい!しばらく帰ってくるな!」

「えええええ……」

 そう言って笑顔のリッカに扉を閉められ、天は仕方なく言われた通り葵のクラスの方へと向かう。