放課後、部活終わり。天も文化祭に向けて文芸部の準備をしていたので、遅くなった。他の生徒達もそれぞれ帰る中、天は葵の後ろ姿を捉えた。

「あ……」

 天が声をかけようとしたら瑞穂が先に葵に声をかける。その瞬間、天は固まる。2人は何かを話していた。それを少し遠くから眺める自分……なんでこんな時だけ気配を消しているんだろうと天は自分の行動に疑問を感じた。

 なんで話しかけられない?なんでタイミングを逃してしまうのか? ……そんなのわかってる。


 自分は、葵の隣に立つ資格がないからだ。瑞穂のように可愛いわけでもなければ、明るくて元気があるわけでもない。あんなふわふわ女子に敵うわけない。
 葵は天と違って人望も人気もある。瑞穂なら、彼の隣でも違和感がない。こんな、葵より背も高く可愛いわけでもない、そんな自分があの空間に入るのを躊躇するのは当然だった。

「赤音くん?まだ帰ってなかったの?」

 ぼんやりとする天にケイトが声をかける。天はそれに苦笑いして誤魔化すと2人の姿を目で追った。

「どうしたの?赤音くん?」

 ケイトが不思議そうに天の顔を覗くので、天はヘラっと笑う。

「……疲れただけですよ」

 そう言って帰り始める天の後ろ姿を見てケイトは首を傾げた。

「何やってんだろ……」

 天の呟きは、誰にも届かなかった。