「安岐先輩は可愛いよりかっこいいと思うんです。優しくて、紳士的だし、何より剣道をしてる姿が一番素敵です」

 その言葉はまさに今の天の気持ちそのままだった。だからだろう。初対面の相手に、目も合わせられない天が思わず声を弾ませてーー

「わかるうう!」

 そう叫んでいた。その声に驚いたのか、女子は目を見開いて天を見ている。そして、天もやっちまったと我に返り慌てて弁解した。


「あ!いや、その……安岐くんってかっこいいですよね」

「……はい!」

「凛と真っ直ぐしてるところもあって……」

「そうなんですよ!もう本当にかっこよくて素敵で!」

 2人して葵の話題で盛り上がり始める。初対面なのにこのシンクロ率の高さよ。と天は思う。しかし、それは相手も同じだったようで、彼女は楽しそうにお喋りをやめない。

「本当は前から見学にきてたんですけど、いつもファンの人たちの背中しか見えなくて、だから今日は思いっきり前で見れて幸せなんです」

 そのセリフに天はハッとして恐る恐る相手を見る。そこには天使のように微笑む女子がいた。背の低さもプラスされて可愛さが増す。こんなお人形さんみたいなフワフワ女子実在するんだなと思っていると「赤音さん」と声をかけられた。

「あ、安岐くん……」

 ちょうど天に気づいた葵が扉の方までやってきたのである。天はまずいと思い即座に目を逸らしてしまう。しかし葵は天の耳が赤いのに気づいて、クスッと笑うと少し揶揄うような声色で話かける。

「また覗きですか?」

「はい?ちがうよ観察」

 反射的に答える天。ようやく目が合い葵が楽しそうに笑う。天はハメられたと思いつつも案外普通にやり取りができたことに拍子抜けする。同時に、あー、よかったなと安堵した。葵と話す度に変な風になるのは嫌だったし、楽しく話せる方がいいから。