しかし、そんな天の思考に気づいたリッカとエマが口を開く。

「そうね、それがいいかもね」

「うん。折角だから行ってきなさいよ!」

 2人の後押しもあり、天は剣道部の練習を見に行くことになったのである。


 放課後になり部活へ向かう面々や帰宅する生徒達で騒がしくなる廊下を通りながら、天は剣道場へと向かった。
 葵のことはまだ意識してしまう。それでも剣舞が見たい気持ちが勝り、自然と歩みは速くなる。

 剣道部道場の扉が開いており、そこには先客がいた。小さくて可愛い感じの女子だ。中の様子を覗く彼女を見て、天はマジかと落胆する。独占できるって言ったじゃないかよ、いたみんよ!と文句を心の中で唱えつつ、こっそりといつものポジションである扉の横の窓から中の様子を覗いた。

 葵が袴姿で竹刀を奮っている。いや、舞っているというのが正しい。その姿が本当にかっこよくて天は見惚れてしまう。

 そして、葵の舞に天は自然と言葉を漏らす。

「綺麗」

 それは、隣からも聞こえた。天は驚いてそちらを向く。相手も天の方を見ていた。

 天は思わず顔を背ける。内心やばぁぁと焦り、どうしようこんなシンクロある?とかいろいろ考えていると、何を思ったのか相手の女子は「ですよね!」と嬉しそうに笑う。

「すっごく綺麗で、見惚れちゃいますよね」

「え、あ、はい」

「袴姿も本当にお似合いで、なんだかぽわーんって目が奪われちゃいますよね」

「う、はい……そうですね」

 グイグイくる女子に天は顔から冷や汗を流し、目を泳がせる。こんな風に一気に距離を縮められると天にとってはかなりダメージで、一応は笑顔でいるものの大変疲れる。

 嵐よ早く去れ!と失礼なことを願いながら彼女の興奮が収まるのを天は待つ。するとニコニコと嬉しそうに葵の話を続けてきた。