「あれ?でも安岐くん同じ中学校にいなかったような……」

「ああ、俺中学卒業後にこっちに引っ越してきたんです。だから高校からなんです」

「ああ、なるほど……」

 そんな会話をしながら歩いているとすぐに駅が見えてきた。天は少し寂しく感じたが、今日はかなり収穫があったし、時間も遅くなっていたのでそのまま電車に乗ろうと思った。しかし葵は駅の前につくと天の腕を掴む。

「え?」

「赤音さん……危ないです」

 葵がそう言うと、天の前を人が駆け抜けていく。確かにあのまま進んでいたらぶつかっていただろう。

「あ……ありがとう」

 素直にお礼を言う天に、葵は微笑んでから手を離す。

「気をつけてくださいね。ではまた明日、赤音さん」

「う、うん……ありがとうございました……」

 自転車を押しながら去っていく葵の後ろ姿を見送る天であった。


 帰宅して、夕飯も入浴も済ませた後。ベッドの上でゴロゴロしつつ天は今日のことを考える。

 今日だけで何回葵にキュンキュンさせられたかわからない。優しい姿から雄になるなんて、なかなかやるなと思いつつ天はハッと閃く。

 これをこのまま恋愛小説として書けば最高のキュンの作品になるのでは、と。自分と葵をモデルにして小説を書けば、サクサクいいのが書けそうだと天はニヤニヤする。それは頭に思い描くシナリオの構成にワクワクしているからなのだが。

 同時に天は気づかなかった。キュンをする理由も、サクサク書けそうな理由も。

 天は葵に惹かれているという事実に無意識に目を背けていた。