夏休みも終わり、(そら)達の高校の新学期最初のイベントは文化祭。前もって準備をする者もいるが、だいたいは8月下旬から登校して一斉に準備をし、約一週間後くらいに当日を迎える予定のそれ。天も部活の出し物とクラスの出し物に珍しく大忙しだった。

 主に心の中が。


「赤音さーん、これ持ってー!」

「はい!ただいま!」

「赤音さん、ここ届く?」

「はいはい、OK」

「赤音さーん」

「はーい」

 机を後ろに寄せた教室内を行ったり来たりする天を見てリッカとエマは自分の作業をしつつコソコソと話す。

「あれ、よくやってるわね」

「天にしては頑張ってる」

 そう、2人は天がクラスメイトに声をかけられ笑顔で対応するが、決して目を合わせていないことに目ざとく気づいていた。

「本当に天は慣れてない相手だとあーなるね。受け答えしてるだけマシなんだろうけど」

「本当。最近は伊丹とか安岐葵とかと親しくしてたから忘れてたわ」

「お?なんだ、呼んだか?」

 2人の話を聞きつけた伊丹がその場に加わる。リッカは天のことを話して、伊丹も「なるほど」と天を見た。

「でも結構社交的にみえるけどなぁ、あの様子だと」

 伊丹はリッカとエマを見て言う。そんな伊丹に2人は首を横に振った。

「いや、天の場合は私達だけよ。まあでも……確かに安岐葵とは最近仲良いよね」

「それと、伊丹とも」

「そういえば……目を合わせて話してくれてるな」

「それは天が伊丹を自分側だと思ってるから。ようは友達なのよね」

「よかったね、友達認定されて」

「逆に“いたみん”言われて友達じゃなかったんならショックだわ」

 伊丹の返しに2人が笑いながら頷くとちょうどそこに葵がクラスの外から天の名を呼んだ。

「赤音さん」

 その呼び声に天はあからさまにギクッと反応し、葵を見る。


「あ、安岐くん……何か用かな?」