「……アホやな」

「へ?」

 葵の呟きに今度は天が間抜けな声を出す。そして、深くため息を吐いた。

「ほんま、アホや」

「ちょっと、なんで急にディスられるの?私」

 本当にわからないという天に葵は小さく笑う。

 天の言葉で兄より劣っていると思っていた葵の心が救われる。いつも置き去りで、見て欲しくて……認めて欲しくて。必死になっても届かなくて。
 そんな自分は願っていたのだと。自分も誰かの一番になりたかったのだと葵は気づいたのだ。

「赤音さん」

「ん?」

 急に名前を呼ばれて天は首を傾げる。そんな天を葵は見つめて口を開いた。

「ほんまに……ありがとお」

 泣きそうな顔で微笑む葵。そんな葵を天は思わず抱きしめ、頭を撫でる。優しく、何度も。葵はされるがまま、ただ……受け入れる。

「せやから……なんでそんな可愛いことすんねん」

「だって、安岐くんが……その、可愛くて?というか、思わず?衝動的?気づいたら?」

 天の言葉に葵は天の肩に顔を埋める。そんな葵が可愛く思えて仕方がない天なのだ。そのまましばらく時が流れ、葵は小さな声で呟く。

「……恥ずかしいところを見せてすみません」

 謝る葵に天は平気と首を横にふり、クスッと笑う。

「今日は安岐くんの関西弁いっぱい聞けたね。いつもキュンのセリフの時に関西弁になってたけど、やっぱり本当は素の時にでるんだね。そりゃそうか。こっちが親しみある言葉だもんね」

「……せやなあ」

「あ、でも敬語からの関西弁キュンが萌えるからなぁ。関西弁ずっと聞いていたいのにっ、もどかしい!」

 相変わらずの天の態度に葵は笑う。この素直さに惹かれてきたんだと、改めて思って、天の体に甘えるように身を委ねる。

「……もう少し、こうしててもええ?」

「うん。安岐くんが満足するまで」

「……ありがとう」

 そんな2人を夕焼けの空だけが見守っていたのだった。