(そら)の手を強引に引っ張り葵は無言で歩く。特に目的地などなく、ただ2人きりになれる場所を探し歩いた。そんな葵の背中に天は必死に声をかける。

「ねぇ安岐くん!」

「……何ですか」

「手!離してよ……痛いよ……」
 
 天がそう言っても葵の手は緩まない。それどころか更に握る力が強くなる。そんな葵に天は困惑した様子で立ち止まるが、葵の引く力に負けてそのまま歩いていくしかなかった。しばらく歩き続けると夕方だからか、誰もいない小さな公園を見つけたのでそこに入る。

 並んでベンチに座り、その間も葵は無言のまま手を離さない。天はどうしようと悩みつつ、話題を振ることにした。

「今日も、部活お疲れ様」

「はい」

「今日の安岐くん、すっごく集中してたというか、なんか凄まじい気迫があったよね」

「そうですか」

 会話が続かない。会話する気もないのかもしれないと天は思った。それでも、ここで諦めても平行線のままだから、止まるわけにはいかない。葵の気持ちも何もわからないままは嫌だと天は、また声をかける。

「えと、知ってたの?私が(しずか)さんといたこと」

「伊丹が教えてくれたんです。赤音さんが俺によく似た男に拉致られていったと」

「そっか……」

 確かに静と葵は似ている。兄弟だから当然なのだろうが、葵が背が高く、少し髪が伸びればあんな雰囲気になるのかもしれないと天は想像した。

 そんな葵を彷彿させる相手に伊丹だって戸惑ったかもしれない。けれど天にはありがたかった。あの場面を見られていたことを。偶然かもしれないが、お茶をする時間がとれ、話も聞けた。伊丹が葵に知らせるタイミングがかなりよかったのだと考える。
 なにはともあれラッキーだったと伊丹の気遣いに天は感謝した。おかげでこうして葵と2人きりになれたのだから。ずっと気になっていた。この前から、そして今日の葵も。