好きかどうかと言われたら好きだ。でもそれは恋愛としての意味ではない。人として友として好感がもてる。キュン提供者ということはもちろん伏せておいた。

 天の答えを聞いた静は目を細めうれしそうにする。

「楽しくやっとるみたいでよかったわ」

 呟く静の顔は穏やかで、葵を大切に思っているのだと伝わる。だから天は先日の葵の態度が余計気になり、静に尋ねた。

「あの……静さん」

「ん?」

「安岐くん、何かあったんですか?この前の花火大会の時にいつもと違う様子にみえたんですが……」

「……せやねぇ。まぁ、葵のことやし、天ちゃんが心配せんでも大丈夫やで」

 静は優しく笑うが、その笑みにはどこか影がある。そんな静の様子に何か知っているのだと天は感じた。

「教えてください!私じゃ何もできないかもしれませんが……安岐くんの力になりたいんです!」

 天は頭を下げて懇願した。あんな辛そうな顔をもう見たくなかったから。そんな天の勢いに負けたのか、静は眉を下げて微笑みを浮かべると、ぽつりぽつりと話し出した。

 静が習っていたから、その影響で葵は小さい頃から剣道漬けだった。それが悪いことだとは思ってないが、あまりにもそれだけに集中していたから、勉強などそっちのけで成績はあまり良くなかった。それで親に叱られる日々。
 反対に静は葵とは真逆でなんでもそつなくこなし、人望もあり、周りからも一目置かれていた。

「それでも、昔はもっと素直に追いかけてきてくれてたんやけどなぁ。兄貴の真似とか言うて、勉強もするようになったし、気づいたら今みたいな文武両道の奴になっとって。せやけど……いつしか、プレッシャーなんかわからへんけど、兄の俺より劣ってるっちゅうことを葵は酷く意識しだしたな」

 静が懐かしそうに、けれど寂しそうに話す。