まさかのお誘いに天は戸惑うが、ここでついて行くわけにもいかない。しかし、断ろうにもどう断れば正解なのかわからない。

 天の様子がわかるのだろう。静は少し考えて、わざとらしく悲しそうな顔を見せる。

「実はな、葵の剣道姿見よう思てきたんやけど、よくよく考えたらこれ俺不法侵入なるんちゃう?ってなってな。泣く泣く諦めてたところにきみがきたんよ。こんな悲しい気持ち誰かと美味しいお茶でも飲まんと晴れんわ。どうか頼むで、な?」

 静の言葉に天はそうなのかと納得する。葵の剣道姿をみにきたのに見れなかったのは可哀想だとさえ思えてきた。素直な天は静を励ます。

「元気出してください静さん。安岐くん今日も頑張ってましたよ」

「ほんまに?ええなぁ見れて。せや、赤音さん、下の名前何て言うん?」

「え?天です」

 静は天の答えにニコッと笑い、少し弾んだ足取りで天の手を引いた。


「ほな、天ちゃん!お茶しにいこか」

「え、あの!」

 そう言って静に手を引かれながら連れて行かれる天。その姿を偶然にも伊丹は目撃し「なんだあれ?」と呆然としたのだった。




 カフェに連れてこられて、天が注文したのはレモンティーとケーキセットだ。静もコーヒーを頼み2人でテーブル席に座る。
 そして、静はニコニコしながら口を開いた。

「なぁ、天ちゃんは葵のこと好きなん?」

「へ?」

「いやな?葵が女の子とデートなんて大阪おるときは見ることもなかったから。仲ええんやろなぁ思て」

 静の言葉に天は考える。好きかと言われたらわからない。でも……

『赤音さん』

 そう呼ぶ彼の声が優しくてキュンだなと思ったり、一緒にいて楽しいと思うのは本当だから。

「安岐くんは……大切な友達です。いつもよくしてもらってますし、一緒にいて楽しいんです」