そんな葵の言葉に天の胸がギュッと締め付けられる。葵はそれだけ伝えると天の返事も聞かずまた練習に戻っていった。その状況を見ていた伊丹が慌てて天のところへ駆け寄る。

「赤音、大丈夫か?」

「いたみん……なんで、安岐くん何があったの?」

「いや、俺にもよくわからん。ここんとこずっとあの調子だ」

 伊丹の言葉に天は考える。ここのところというと、先日の花火大会の帰りのあの出来事が関係しているのか、と。

「いつも余裕そうに穏やかに剣を奮ってたやつがなぁ」

 葵に顔を向ける伊丹。その困惑した声に天も反応して葵に目をやる。一心不乱に剣を振る葵の姿。そんな葵を見て、天も苦しくなる。

「なんであんなになってんのか、赤音なんか知らん?」

 伊丹にそう聞かれて天は首を横に振る。本当に何も知らなかったから。でも、あの花火大会の日が何か関係しているのはわかる。
 天の反応に伊丹は「そっか」とため息を吐き、どうしたもんかという様子で腕を組む。

「もう一回、声かけてくか?」

「……やめとく。邪魔しちゃ悪いから。いたみんも部活頑張ってね」

「おう。じゃ、またな」

 天は伊丹に手を振って校門の方へ足を進める。あの様子なら連絡はそりゃこないよなと納得しつつも、心配をして……頭を悩ませつつ校門を出ると、そこで思わぬ人物に遭遇した。

「あれ?きみ、赤音さんやったよね?」

 そこにいたのは、葵の兄である(しずか)。天はぎょっとして少し慌ててしまう。

「っ……安岐くんの、お兄さん」

「そない警戒せんといてや。俺、怪しいもんとちゃうし」

 ヘラヘラと笑う静に天は後ろに一歩下がる。それを見て静はさらに笑みを深めた。

「葵から赤音さんのこと聞いたで?可愛ええ子やねって思ててんけど、ほんまに可愛いわ。なぁ、俺とお茶でもせえへん?」

「いや……あの……」