初めは興味本位、次にはキュンの提供者として、そして男友達として。
 天は本気でそう思っていた。
 それなのに、違った。葵はそうではなかった。純粋に選んでくれた。魅力的だと言ってくれた。

「なんで……何が?」


 天はわからなかった。葵が好きかどうかも。そもそも恋愛がわからない。ドキドキしたりするが、恋愛と結びつかない。何をもって恋愛となるのか、天は悩みすぎて頭がパンクしそうだった。

「期待しちゃダメ……」

 天は自分に言い聞かせる。でも、その反面で葵が自分をどう思っているのかを知りたいとも思っていた。
 こんな複雑な感情のまま花火大会の日を迎えるのだった。





 八月某日ーー。夏真っ盛りのこの日、花火大会で会場だけでなく周辺地域や駅も混雑していた。
 天は一旦全て考えるのをやめて、せっかくなら存分に楽しもうという考えのもと浴衣を着ていた。白生地に朝顔と金魚の絵が描かれている。帯は赤色だ。夜の時間に駅で葵を待つ間も、浴衣のせいか妙にソワソワしてしまう天。

「うぅ……来るの早すぎた」

 駅に設置された時計を見て、天はそう呟く。待ち合わせは18時。まだ30分以上もあるというのに、すでにいる自分が少し恥ずかしいと天は思う。

「赤音さん?」

「っ!あ、安岐くん……」

 そんな時に葵がやってきて、天は少し驚いた。まさかこんなに早く会うことになるなんて思っていなかったから。
 しかし、葵も浴衣姿だったことに天は驚く。葵の浴衣は深い紺色の(かすり)柄に灰色の帯。大人っぽい姿に天の心臓はドクンッと跳ねる。

「変……ですかね?」

 葵は少し恥ずかしそうに天に問う。天は首を思い切り横に振って否定した。

「そんなことないよ!かっこいいし大人っぽい」

「それはよかったです」