天は漫画もよく読んでいたし、ゲームもしていた。今思えばその頃からすでにヲタクっぽい道を歩んでいたのだろう。そのせいか、そのかっこいい男の子とよく話す機会があった。

 二人の間に恋愛なんてものはもちろんなかった。しかしそれを見た女子に天は今でも引っかかる呪いの言葉を投げられる。

『ーーなんで、あいつが?』


 その後に続くのは、あんな見た目なのに?とかあんな可愛くもないのに?とか。とにかくネガティブな言葉。

 陰口と共にクスクス笑われる日々。イジメとまではいかないそれ。男の子と話す時にだけ降りかかる災い。そんなものをまともに受けて、天の性格は歪む。恋愛に対して、こんな自分が受け入れられるわけもないと考えるようになり、中学はかっこいいと思うと人がいると自分から接点が増えないように避けたりもした。

 そんな時にネットの恋愛小説と出会い、自分の考えたものを物語にして書く日々がスタートする。ヲタクっぽさがいい感じに働いて、とりあえず片っ端からいい感じのキュンキュンするものを読んだ。そして自分も書いてみる。こうだったらいいな、こんな風に言われたいな、など天のしてほしいことが詰まった物語。自分で読んでときめいてキュンキュンして、それを他の人が読んで共感してくれることが楽しかった。恋愛に対して向き合えた時だった。

 天自身は恋愛がよくわかってない。けれど、ときめきやキュンを通して他の人と繋がれば自分も恋愛をした気になる。

 そんな、複雑で面倒な思考回路の天が誕生したのだ。ときめきやきゅんを物語として還元して共有するのは、恋愛関係の場で天にとって自分を認めてもらう手段だった。

 そんな天が初めて心を乱されてる相手が葵。自分より背も低い、それなのにいつも凛々しく優しくかっこいい彼。女子からの人気もある。そんな人が自分の隣にいていいわけないのに、葵は天を選んで隣にいてくれる。