急にそんなことを言われた天は先程よりも動揺していた。見ていいだなんて……見たいけど!でもそんな風に言われて見ていたら、見てることがバレて恥ずか死ぬっ!こっそり観察するのが陰キャの得意分野なのにっ!

 天の脳内はパニックである。そんな天の様子を見て葵はふっと目を細めて笑う。それはいつも見ている優しい顔ではなく、男の子の見せる雄の色気が垣間見えた。

 その顔に天はハートを鷲掴みにされる勢いだった。

「俺が稽古をしている間、ずっと俺のことを見ていてください」

 葵はそういって天に一礼し、他の部員の元へいく。そしてまた先程の美しい剣さばきを見せはじめる。先程とは違う動きだ。それはまるで魅せるための舞のようで、天はその姿をただただ見つめてしまうのだった。


 結局、天はその日も葵の部活を最後まで見学してしまった。またチャイムの音が響く。片付けをする部員達。それを指示する葵の姿は、確かに部長らしい。昨日は一人だったからわからなかったが、この姿が見れただけでも今日は頑張っていてよかったのかもしれないと天は思った。

 天は少し離れたところにいる葵に会釈をしつつ、道場を出ようとする。しかし葵が小走りで駆けてきた。

「赤音さん、送ります」

「え、いいよ。大丈夫」

「いえ、送っていきます。俺が誘ったんですし。こんな暗いのに女性を一人で帰らせる訳にはいきませんから」

「いやいや、ほんと大丈夫だか……」

 らと言いかける天の言葉を遮るように葵は天の腕を掴むとぐいぐいと道場の中まで連れ戻す。その強引さに天は少し驚いたが、そのまま黙ってついていくことにした。しかしやはり少し心配で、何度も大丈夫なのに……と言うも葵は聞く耳を持ってくれない。

「少し待っていてください。着替えてきますので」