まずは響が一本先取し、少し呼吸を整えながら葵を見る。葵も肩で息をしながら響を見返すが、その目は闘志に溢れていた。その態度に響はイラッとする。

「舐めんな!」

 そう言って2戦目も響は葵と間合いを詰めて攻撃を仕掛ける。しかし、スピードが上がっても葵には目で追える速さだった。そして次は葵が一本取る。

「っ!はぁ!」

「くっ……」

 互いに一歩も譲らない。

 3戦目、これで勝負がつく。


 天は二人の試合に釘付けになりながら、脳内で思考を巡らす。響の言葉「全国大会で安岐に勝ったら俺の彼女になってよ」という話。
 このまま響が勝てば、そうなるのか?と思い。しかし、そんなことはきっとありえないと天は確信していた。

 天には葵が響に負ける姿など想像できないから。

 背丈も体格も響が上。それでも立ち向かう葵の姿は天には一番かっこよく映る。

「安岐くん……」

 天には葵しか見えていない。その時点で、天の心など決まっているというのに、本人は自覚もない。


 審判の合図で3戦目が始まる。葵と響はどちらも一歩も引かずに相手に打ち込む。

「やるなぁ、安岐!」

「霞ヶ浦さんこそっ」

 真剣勝負の2人はとても楽しそうで、本気で戦える、その高揚感が胸を熱くする。

 葵は響との打ち合いの中、今までにない集中をしていた。天を渡したくない、その想いが目の前の敵を潰さんと勢いづく

 たとえ、天が誰を選ぼうとも。この勝負にだけは絶対負けたくない。天に負ける姿を見せたくないという思いが、葵の心を突き動かす。

「っ……!」

 パァンっといい音が会場内に響いた。それは勝敗が決まった音。葵が素早く面を打ち、勝負がついた証だった。

「一本!」