不思議に思った葵は天に話しかけようとするが、他校の生徒や出場校の関係者らも行き交う中で近くにいても少し声が通りにくい。近寄って「赤音さん」と声をかけると天は、観念したように顔を合わせる。

「何かありましたか?頬が赤いようですが……体調は大丈夫ですか?」

「え!?それは全然!元気だよ!」

 心配する葵に天が慌てて返すと葵はまだ何か言いたげで……追求しようとした時、その声は響いた。

「天!」

 天の後ろからその肩に手をのせてきた人物。周りの女子が黄色い歓声を上げる中現れたのは響。


「俺の応援にきたのかよ。声かけろよな」

「響さん。私は安岐くん達の応援にきたんだよ」

「はあ?じゃあ俺は応援してくれねぇの?」

「そんなことはないよ。頑張ってね」

「適当だな、おい」

 葵の目の前で親しく会話をする天と響。葵は気づく。天が響のことを名前で呼び、敬語も使ってないことに。

 そんな葵の視線に気づいた響は余裕そうに勝ち誇った笑みを浮かべた。葵はぎりっと奥歯を噛み締める。
 無言で交わされる男同志の争いに天は全く気づかない。響は葵に見せつけるように天の頭を撫でまわす。

「ちょっと!なに?」

「無性に撫でまわしたくなった。あれだあれ、癒し効果」

「え!私の頭にそんな価値があったなんて」

「冗談だよ。ねぇわ」

「もう!なんなの!」

 天もやめてといいつつ強く拒否しない。楽しそうにやり取りをする二人をみて葵は、天のその笑顔を向けてもらえるのが自分だけじゃないことに胸がモヤモヤする。
 響はそんな葵に笑みを深めると天の肩を抱いて引き寄せる。

「おい、天。約束覚えてんだろな?」

「え?あー……」

 歯切れの悪い天。二人しかわからない話に葵は耐えられず、それでも感情を吐露することはせずに天に声をかけた。

「赤音さん、そろそろ席に着いた方がいいかもしれませんよ」