8月初旬。蝉が存在を主張するように必死に鳴く中で、剣道の全国大会は開催された。
 (そら)はリッカやエマと共に葵達の応援に会場に来ていた。

「なんか、周りの選手みんなガタイいいわね」

「全国の強豪が集まってるって感じだね」

 ロビーでリッカとエマがそう話す中、天は周りを見る。屈強な者たちの背丈やオーラに圧倒される中で、目につく一際小さな存在。それなのに凛々しく見えてしまうのは欲目なのか、天はわからない。けれども見つけた途端、嬉しくてその名を呼んでいた。

「安岐くん!」

 振り向く葵。天を見た瞬間の葵の顔は晴れやかで、その笑顔に天もドキッとする。

「赤音さん達、きてくれてありがとうございます。暑かったでしょう?熱中症に気をつけてくださいね」

「うん、安岐くんもね」

「俺は大丈夫ですよ」

「いーや、もっと言ってやってくれよ赤音。安岐のやつ気合い入りすぎて素振りやら打ち込みやらで、さっきまですっげぇ汗だくだったんだよ」

 葵の後ろから伊丹が呆れつつ笑って話せば、葵は苦笑いする。それを見て天は感心するように言葉を漏らした。

「安岐くん、すごい頑張ってるんだね。そりゃそうか全国大会だもんね」

「そうですね。この日のために毎日練習してきたので、自分の納得する結果になるように悔いは残したくないんですよ」

 そう話す葵は眩しくて、天は胸がキュンとする。その感情に戸惑うとリッカやエマが声をかけてきた。

「天、私ら先に観客席行っとくから」

「じゃあ二人とも頑張れー」

「おう、ありがとうな。安岐、俺も中に入っとくわ」

 リッカ、エマ、伊丹の3人がそれぞれ去ると葵と天は2人きり。先程までの気持ちに戸惑う天は葵と目が合うと思わず逸らしてしまう。