笑う響に天も気まずさがなくなり、ほっとする。響は天の顎を離してニッの口角を上げて微笑んだ。

「覚悟しとけよ?」

 王子スマイルから発せられた言葉はなかなかに挑発的。天は何も言えなかった。


 帰宅して、自室のベッドの上で天は今日の出来事を振り返る。突然の響からの告白には驚いたが、この展開はいいネタだなと他人事。でも、ドキドキはしてしまった自分に首を傾げた。

 このドキドキは告白されたのが初めてだからか?と思いつつ、天の脳裏に葵が浮かぶ。
 なぜ葵の顔が?ともなり、もう考えてもわからないので、とりあえず今日のことを小説に書き上げることにした。

 アップすれば、即読んでくれて反応がある。読者数といいねが増えて、天はニヤついた。やはりキュンもときめきも小説に還元すると効果が絶大。たとえ自分に恋愛がわからなくても、この実体験が読者の心に届いてるのは確かだ。

 そんな中、コメントが入る。ありがたいなと思いつつ読んでみれば[どっちと結ばれるのか気になる!]と。天は結ばれるをリアルに考えてみた。

 物語のモデルである葵と自分。そして響と自分を想像して……。

「いやいや、ないない!ありえない!」

 恥ずかしくなり、一人ツッコミをして、その妄想を慌ててかき消した。

 そんな中、メッセージが届く。スマホを確認すると、相手は葵だった。

【今日、月が綺麗ですね】

 そんな、他愛もない内容。それでも天は嬉しくなる。

【ほんと!なんかいいことありそう】


【いいことですか……。おいしいものがたべられるとか、いいですね】

【いいねそれ。そうだ、あの前に行ったカフェ、また新作のパンケーキがあるみたい】

【今度一緒にいきましょう。半分こすれば怖くないでしょう?】

【うん!楽しみだね!】

 こんなやりとりも楽しいと天は思った。いっぱい話したいことができた、早く会いたいな、と。天の心は不思議と弾む。

「安岐くんに、会いたいな……」

 そんなことを声に出ていたことに、天は気づかない。

 天、葵、響の3人は、それぞれの場所で窓から月を見る。その胸のうちに思い浮かべるのはーー……。

 3人の想いは交錯する。