そう笑顔で話しかけたものの、初音はアイを無視して用意された椅子に座る。椅子に座った初音はヘッドホンをつけ、一人の世界に入ってしまった。アイは話し掛けるのを諦め、次の歌手の曲を聴く。

やがてアイの番がやって来た。スポットライトが照らす中、ポップな音楽が流れ出す。マイクを握り締め、息を吸い込む。その顔には笑顔があった。


一緒に笑おう
一緒に歌おう
どんな時だってそばにいるから
一緒に歩こう
一緒に手を取り合って
明日なんてわからないけど
幸せは待っているから


アイが歌い終わると拍手が起こる。頭を下げた後、アイはステージから降りた。口々に「すごくよかったよ!」と声をかけられ、照れ臭い気持ちになる。

その後、数人のアーティストが歌い終わると今夜のFステのトップ歌手を決める投票が行われることになった。Fステではトップ歌手は、審査員の投票と視聴者の投票で決められる。この瞬間は誰もが緊張する時間だ。

やがて投票時間が終わり、歌手たちがステージに集められる。誰もが緊張した面持ちだった。アイの稼働も早まっている。しかし、アイの目は前方ではなくて別の場所を見ていた。