(どうして、あんな悲しそうな目をしてるんだろう……)

アイの胸にも悲しみが広がっていく。その悲しみを増幅させるかのように切ない音が鳴り始めた。初音の歌が始まったのだ。


この未来がわかっていたなら
最初から結末が知れたのなら
あなたを見ることはなかったのに
どうして私に笑いかけたの?


それは悲しい失恋ソングだった。初音の美しいソプラノがアイの耳に届く。悲しみを含んだその歌声に、アイの心臓はまるで何者かに掴まれたような感覚になった。本物の心臓はどこにもない。しかし、心臓があるかのように思えてしまう。

「……綺麗な声」

悲しくも美しい歌がステージに静かに響いた。アイの目の前がぼやけ、頰を温かい雫が伝っていく。それを拭うことなくアイはステージを見ていた。

曲が終わるその瞬間まで、初音は儚くも美しい光を纏っていた。



初音がステージから歌手たちがいる場所へ歩いて来る。アイはすぐに彼女に駆け寄った。

「初音ちゃん!すごくよかったよ!」