アイは話しかけたものの、初音は顔を晒して離れていく。その態度にアイの胸は痛みを覚えた。

アイと初音はそれぞれのファンからライバルとして認識されている。アイは十代の少女の設定で、初音が女子高生だからだろう。アイはライバルとは一度も思ったことはないのだが、ネットでそう言われ、アイと初音はライバルだと世間では認識されてしまっているのだ。

(仲良くなりたいのに……)

初音はアイのことをネットの影響かライバルとして認識しており、アイを見ると睨み付けて離れていく。話したことはほとんどない。

「音無さん、そろそろ出番ですから準備お願いします」

「はい」

黒いシンプルなドレスを着た初音は返事をし、ステージの近くまで移動していく。その様子を見ていたアイは、彼女の目を見た瞬間に胸が締め付けられる感覚を覚えた。

アイの目には緊張があった。歌手としての立ち位置が決まってしまうと言っても過言ではないステージだ。緊張するのは当然だろう。しかし、彼女の目には悲しみも含まれているようにアイには見えた。