真っ白なブラウスの上に赤い花柄のロングドレスを着たアイはテレビ局の廊下を歩いていた。腰ほどまであるピンク色の髪を揺らし、今日出演するFステで歌う曲を口ずさむ。すると前方から歩いてきた男性が「あの!」とアイに声をかけた。

「弦音アイさんですよね?よかったら握手してくれませんか!?」

「もちろんです!」

アイは手を差し出す。男性は緊張しつつも嬉しそうに手を握る。そして「すごいな……」と呟く。

「まるで本当の人間みたいだ。温かくて、柔らかくて、本物の人間の手みたいだ」

「……博士たちは私を本物の人間そっくりに作ってくれました。ここには心臓の鼓動の音が入った装置が埋められているんですよ」

アイは笑顔で自身の左胸の辺りをトントンと指で叩く。男性は「科学の進歩ってすごいですね!」と感心したように言い、去って行った。その後ろ姿をアイは見送る。

無邪気に笑みを浮かべているアイは、十代の少女に見える。しかし彼女は人ではない。人工知能が埋め込まれた人型のアンドロイドだ。