ちょうど午後を迎えたばかりの食堂はすでに満席近くがお客さんでいっぱいで、賑やかな店内の様子を流し見ながらおじさんの前の席に腰掛けた。


「暑いー、今日暑すぎてやばいよ」
「あぁ、本当暑いな。外はサウナみたいだ」


日焼けした肌が映える、白いTシャツ。
今年の春に五十歳を迎えたというのに相変わらずおじさんは若々しい。

漁師という仕事柄も関係しているのか、引き締まった筋肉質な体は年齢よりもずいぶん若く見える。


「もう終わったの?仕事」


そう言いながらテーブルに置かれている瓶ビールと手に持っていたグラスに視線を向けると、小さく頷いたおじさんはそのままビールを口にした。

元々カツオ漁を主にしていたおじさんは、昔は沖合なら数日間、遠洋なら一〜二カ月に及ぶ漁に出ていたけれど、私たちが五歳の頃に海斗のお母さんが病に倒れて亡くなったのを境に今の仕事である定置網漁に変わった。

まだ幼かった海斗のことを思うと、沖合漁業で数日家をあけるよりも一緒にいられる時間を優先出来る今のスタイルに変えたことは、おじさんなりに考えてのことだったんだと思う。

沿岸漁業である定置網漁は朝がとても早くて大変だけど…毎日家には帰れるし、冬場以外は早朝四時から出港して、二時間ほどかけて網の引き揚げをして。
帰港すれば、魚の選別をしたり清掃をしたり。

そうして午後には仕事を終えるおじさんは、昔からお昼といえばいつも決まってこの食堂で食事をしていた。