「ふふっ、うん。じゅうぶん伝わる。でも夕海にはもっとストレートに言わなきゃ伝わんないんじゃない?ねぇ?」


クスクス笑った詩織は、そばにいた駿と陽ちゃんにそう問いかけた。


「ま…まぁ、そうかも…な」
「うんうん。焦れったいしさっさとストレートに言えよ、海斗」


そして二人がそう返事をすると、何故か海斗は改まったように咳払いをして。


「だから、イライラしたりムカついたりするのは…俺が、夕海のことが好きだからだよ」


見たこともないような真剣な表情で、そんな言葉を口した。


「えっ…あっ…えぇっ!?」
「だから橋本と二人で夏祭りに行くなんて言われたら、腹が立ったってこと」
「…えっ、や…」


驚きと、嬉しさと。戸惑いと、恥ずかしさ。
いろんな感情が一瞬で胸の中で暴れ回って、うまく言葉にならなかったことを今でも鮮明に覚えている。



「あの時、本当に嬉しかったなぁ…」


ぽつりとこぼれた声に、あの頃の光景が蘇っていく。


「固まってる私を見て、みんな笑ってたよね?」


みんなが笑って。カーッと顔が熱くなって。
手のひらは、汗がびっしょりになってた。


「海斗も海斗でその後言い逃げするみたいに波打ち際に走っていってさ…」


よほど照れくさかったのか、しばらく波打ち際ではしゃいでいた海斗はなかなか浜辺に戻ってこなかった。


「懐かしいね…海斗」


返事のない問いかけだけが、波打ち際の泡のように寂しく消えていく。