夏の暑さに拍車をかけるように朝はけたたましくセミが鳴き、毎日その声で眠りから覚めてしまうほどうるさくて困るのに。
夏の夜は凛としていてとても静かだ。

ミンミン、シャンシャン、と大合唱を繰り返す鳴き声は聞こえないし、涼しい風に吹かれながら夜空を見上げていると…ふと思う。


「夏の夜って、落ち着くよね」


ペダルを漕ぎながらつぶやくように言った私に、隣を走っていた駿が「ん?」と聞き返してきた。


「小学校の頃に、星の観察の宿題ってあったでしょ?」
「あ、あったなー、そういうの」
「あー、それ私も覚えてるよ!夕海と海斗がすっごい丁寧に観察ノート書いてたやつだよね」


駿と話していると詩織のそんな声が後ろから飛んできた。
そして、その隣からも。


「俺も覚えてるぞ!夏の大三角だっけ?イラストまで綺麗に書いてて、二人とも先生にめちゃくちゃ褒められてたよな」


懐かしい思い出を口にする、明るい陽ちゃんの声がした。


「あははっ、よく覚えてるね」


ついつい笑みがこぼれ、遠い昔に想いを馳せる。
もう、十年?それくらい前のことなのに、記憶は全く霞んでいない。

夏休みの宿題でだされた星の観察という随分ざっくりとしていた課題。
その課題に、私と海斗は夢中になって取り組んだ。