目の前の信号が、青に変わる。
と同時に、強く吹いた生温い風。
目を細めた私は、狭くなった視界の中を陽ちゃんと一緒に歩き出した。


「…っ」


だけど、次の瞬間。
前方からこちらに向かって歩いてくるその人の姿を見つけた私は、思わず立ち止まりそうになった。

どうしよう、さっきの人だ。
隣には、先ほどあの人に抱きついた私に向かって怒りを露わにした女の人もいる。

偶然にもまた会ってしまうなんて…悪いタイミングだ。

慌てて視線を落として歩みを進める私の隣で、同じようにその姿に気付いたらしい陽ちゃんからは、声にならないような声が聞こえる。


「かい…」


その声に気づかないフリをして、黙って進む。
そしてそのまま私たちは、目を合わせることもなく静かにすれ違った。


でも、すれ違って数秒。
ほんの一瞬だけ後ろを振り返ると、何故かあの人もこちらを振り返っていて。

私たちの視線は、真っ直ぐに繋がっていた。