「あの夏、この町を照らすはずだった、夜空に咲くはずだった輝く夏の花を。今日は存分に、楽しんでいってください」


拍手の音が、町中に響き渡るように広がっていく。
私たちも自然と皆手を叩き、空を見上げる。

するとその直後、澄み渡る七月の夏空に大きな音を響かせながら、パッと一輪の花が咲いた。

ドンドン、と続いて響く音。
さらに打ち上げられる花火が、町を照らし私たちを明るく染めていく。


とても、静かだった。
花火の音だけが盛大に聞こえる、そんな不思議な時間だった。

赤、青、紫。
黄色にピンク、オレンジ色。
夜空を彩るたくさんの花火が、キラキラ咲いては散っていく。


「…綺麗」


言いながら、自然と涙が溢れていた。

苦しかったあの夏。
生きていく希望を失ったあの夏。
それでも今日まで、皆必死で生きてきた。


輝きを取り戻した夏祭りの夜空は、ただただ綺麗で。
昔からあった、三年前まではこんな瞬間が当たり前にあった。
それが、どれほど幸せだったのかと、改めて痛感する。


何気ない平凡な日々。
ありふれた普通の日常。

でも、それは“当たり前”にあるものではない。

突然消えてしまうことがあることを知っている今は、息をしていることさえ幸せなことなんだと…心の底から感じた。