ちひろちゃんの部屋の前まで行くと、何も話してないのに「また来たの」と言われた。
「何も言ってないのに、来たのがよく分かったね」
「…お母さんと話してたじゃないですか」
「そっか。そりゃあ分かるか」
話の切り出し方が分からない。
いつも通りの話し方も、こうなってから忘れた。
何を話していいかも分からないし、もう挨拶は済ませた。
あと、何が残ってるんだ。
しばらく黙っていると、向こうから話しかけてくれた。
「刑事さん、ちゃんと仕事してるんですか?」
「刑事さん…。篤見さんって呼んでよ」
「あ、篤見、さん…」
「そうそう」
「…で、仕事は?」
「仕事…。真面にはできてないかもね。ちひろちゃんのことで頭いっぱいで、班長に気遣わせちゃったし」
「何で。私のことで頭いっぱいって、」
「どうやったら許してもらえるかなとか、また沢山話したいなとか…。ちゃんと顔見て話したい。会いたい」
「会ってるじゃないですか。会いに来て欲しくないけど」
「ううん。ちひろちゃんの顔が見たいの。出て来てよ。一緒に散歩したいし、一緒にご飯も食べたい。スイーツでも良いよ?」
「…クレープで」