私?ーー私を呼んだの?
彼の口から確かに私の名前が出たのに、一瞬、聞き間違いかと思ってしまう。
今までの呼び方とは違い、胸の奥をざわつかせるような甘美で、寂しげだった。
「俺はーー」
高野くんが続きを発しようとすれば、礼司が駆けてくる足音がした。
高野くんは開いた口をすっと閉じてしまう。
「悪いな」
肩にバッグをかけて踵を踏み潰した礼司が2人の間に割って入って来た。間が悪い…。
「高野くん?」
「いや、なんでもない。本屋に寄って行くから、ここで」
「あ、うん…」
「2人とも、またね」
そう言って高野くんは行ってしまった。