「…おまえ……」

察したように目を見開いた礼司の反応で分かってしまった。やっぱり礼司は私に合わせて知らないフリをしていてくれたのだ。


「高野くん…ううん、陽太は、知ってる?」


今度は、陽太に単語帳を向ける。

突然、名前で呼ばれた陽太は驚いたように私を見た。

もし自分が描いたものだと分かれば、陽太は私との思い出を失っていないことになる。


「今、名前で…」

「お願い、教えて。これに見覚えはありますか?」


どうか、思い出してーー。


「これがどうかしたの?」

陽太は単語帳を見て笑った。


「俺、上手く描けたと思うけど?」

「え?」


私は固まる。

もしかして、記憶を失ってーー


「もーさ!じれったいから俺が言うけど、高野は雪菜のことをちゃんと覚えてるよ」


そう私の一番聞きたかったことを、礼司はさらりと答えてくれた。