眩しすぎるほどの笑顔、
照れた顔、穏やかで優しい声……。

 全部全部、脳裏に焼きついている。

 それに先輩と過ごした日々も
昨日のことのように覚えている。

 もう会えない先輩のことをずるずると引きずって、気付けば私は大学生になっていた。

 そろそろ、目を覚まして、
新しい恋に進まなきゃいけないなんてことは分かってる。
 だけど、どうしたって忘れられそうにない。


 ー先輩にもう一度会いたい。



「第一講義室、第一講義室……」

 そう呪文のようにぶつぶつ呟きながら、
もうかれこれ五分くらい建物内を行ったり来たりしているけど……。


 探している教室は見つかりそうにもない。
 入学してそろそろ二ヶ月経つけど、
まだ全然どこにどの教室があるかなんて分からない。

 大学、広すぎるんだよー!

 ああっ、もうあと四分で講義始まっちゃう!
 担当の先生、
怖い人らしいし遅刻したら絶対怒られるー!

 どうしよどうしよ⁉︎

「あのー。もしかして、道迷った感じ?」

 ジタバタしていたら、
後ろから男の人に声をかけられた。

 何故だか私はこの声を知っている気がした。
 振り向いて、彼と目が合った。


「……せんぱい?」

 あの頃とは違って眼鏡はかけていなかったけど、
一目で賢斗先輩だと分かった。

「柚木さん、久しぶり」

 ずっと会いたかった人が目の前にいる……。
 気付けば涙が溢れていた。

「ほんとに久しぶりですね。
 まさか同じ大学だったなんて……」

 こういうのを運命と呼ぶのかもしれない。

「ね、俺もビックリした。また会えて、嬉しいよ。で、柚木さん、今、迷子なんだよね?」

 そうだ、私遅刻ギリギリなんだった!
 先輩との再会に感動して、つい忘れていた。

「はい、第一講義室っていうところなんですけど。」
「あー、そこなら、ここ左に曲がって三番目に見えてくる教室だよ。一応案内しようか?」
「お願いします」

 私は先輩の後ろを追いかけた。

「元気にしてた?」
「はい」

 まあ、ギリギリ嘘はついてないよね。

「そっか、なら良かった」
「先輩、雰囲気変わってませんね。
眼鏡してないだけで」
「そう……かな?」
「いまの生活には慣れました?」
「うーん、三年も経つとかなりね。」
「背、伸びました?」
「そう!あれから五センチも伸びたんだよ。
よく気付いたね」
「すごいですね!久々に会ったからですかね、
逆に毎日のように会ってる人だと気付かないのかも?」

 あぁ、懐かしいなこの感じ。
 先輩と喋ってると落ち着く。
 でも、まだ全然喋り足りない。
三年も期間が空いてたんだし当たり前か。
 先輩が足を止めた。

「着いたよ。」
「ほんとにありがとうございます‼︎」
「いえいえ。あ、柚木さん。」
「何ですか?」
「耳貸して」
「え?はい」
 

(綺麗になったね。)
 
「〜っ⁉︎」


 私は叫びそうになるのを必死に堪えた。

心臓は今にも張り裂けそうだ。

 ーキーンコーンカーンコーン

「ヤバいっ、講義始まるわ。
 じゃあ、講義終わったら二階のカフェテリア集合で。伝えたいことがあるから。」
「えっ!?はいっ、分かりました!」

先輩どういう意味ですか⁉︎
期待しちゃっていいんですか?


 私たちは互いに背を向け別々の方向に
駆けて行った。


六月八日。

或る初夏の日に、
私の恋は再び動き出した。