「そうだ、先輩、これ」

私は紙袋を渡した。

「昨日のお借りしたハンカチ洗濯しました。
あと、しつこいかもしれないんですが……
感謝の手紙です」
「えっ、手紙⁉︎めちゃくちゃ嬉しいよ、
ありがとう」

先輩は目をきらきらと輝かせている。

まさか、こんなに喜んでくれるだなんて!
予想外だった。

先輩は紙袋の中をガソゴソと探り、
封筒を見つけ出すと、シールを剥がし始めた。

「いや、今は!一人の時に読んで欲しいです」

反射的に止めてしまった。

「すみません、わがまま言って」

ラブレターではないとはいえ、
目の前で読まれるのは流石に恥ずかしさでどうにかなってしまいそうな気がした。

「分かった、家に帰ったら読ませてもらうね」

先輩は封筒を紙袋に戻した。


「あの」
「ん?」
「私先輩に聞きたいことがあって。
聞いてもいいですか?」

「いいよ、全然。あれ?柚木さんは元々学校の用があるって言ってたよね。時間、大丈夫?」

「はい、文化祭の準備があって。それが十時二十分からです」
「まだ時間、結構あるね。良かった。
で、俺に聞きたいことって?」

「先輩って、どこに引っ越すんですか?」
「九州の方だよ」

「すごい大移動ですね……」

「そう、俺人生で引っ越ししたこと今まで一回も
無くて。だからちょっとワクワクしてるんだけど、
やっぱり、長年住んでたところを
離れるのは辛くてさ……」

「私も十六年間、ずっと同じ家です」

「あはは、仲間だ。それにね、
俺この学校の図書室好きだったからさ」