「こんにちは。
あの、一学期のお礼を伝えたくて来ました」
「それでわざわざ来てくれたんだ」
「はい、先輩のおかげで、無事赤点を回避して
お母さんを仏頂面にせずに済みましたし、
数学っていう教科をちょっと好きになれました」
「俺も嬉しい。後輩の役に立てて。
でも、一番の理由は柚木さんが真面目に俺の話を
聞いてくれたからだと思う。
柚木さんってほんと真面目で良い子だね」

 先輩の表情と声色は、
いつもよりうんと優しい気がした。
 先輩の華奢な指が私の髪に触れた。


 ……油断していた。


「偉いねー、ほんとに」

ここは天国ですか??

「ご、ごめん!勝手に頭なんか撫でて‼︎」

 先輩は我に返ったようだった。
 私としては、
ずっと続けてくれても良かったんだけどなぁ。


 まあ、当然そんなこと言えないけどね。

「嫌……だったよね?急に」
「いえ、むしろ褒めてもらえて嬉しかったです」
「なら、良かった。
俺も気持ちが高まっちゃって……。
気付いたら腕が伸びてた」

 多分、私が期待しているような意味ではないんだろうけど、そんなことを言われると調子に乗ってしまいそうになる。