数学のテストから今日でちょうど一週間が経って
テストはほとんどが返却された。

「しおり、お昼食べよ」
「いいよ〜」

 利湖が椅子を持って私の席にやって来た。

「……あれ?」

 廊下の方を見ながら首をかしげる利湖。

「どうしたの?」

「ねぇ、何か篠原先輩みたいな人が
あそこにいるんだけど」

 ブッー!

 思わず、口に含んだ水を吹き出してしまった。

「ちょっと!しおり」
「ごめん、先輩の名前急に出すから。
かかってない?」

「私は大丈夫だけど、机がちょっと濡れてる」
「ほんとだ」

 私は机の上をハンカチで拭いた。
 飲んでるのが水で良かったぁ。

「やっぱり、あれ先輩だって。こっち見てるし」
「じゃあ、私行って来る」
「うん、行ってらっしゃい」

 私は廊下に出た。
 廊下は少し蒸し暑くて、
篠原先輩はシャツの胸元を掴み
パタパタと煽いでいた。

「先輩」
「あっ、柚木さん」

 先輩は私に気づくと、こちらに振り返った。

「先輩、私に用があったんですか?」
「うん、テストの結果聞きに来た。
そろそろ返ってきただろうから」
「そうでしたか。
えっと……数学が八十点、化学が七十点でした!」
「すごいじゃん!」
「数学は今回結構難しめだったらしくて、
担当の先生からも褒められました」
「柚木さん、頑張ってたもんね」
「そう言ってもらえて嬉しいです。
私がここまで高い点数を取れたのは
先輩の丁寧な指導のおかげです!」
「ほんと?」
「はい!」
「俺ってそんなに教えるの上手いの?全然自分では
そう思ったことなくてさ。」

 どうやら、自覚してないパターンらしい。

「そうなんですか?」
「うん。」
「絶対塾の先生とか向いてると思います。
先輩って、目指してる職業とかあるんですか?」
「書店員はちょっとやってみたいなって思ってるよ。塾の先生、バイトとしてやるのアリかもな。逆に柚木さんは?進路どんな風に考えてる?」
「私は……。まだ、全然決まってないです」
「まぁ、まだ一年生だしね。
ゆっくり決めていけば良いと思うよ」
「それもそうですね。すみません、わざわざ。
一年生のフロアまで来て頂いて」
「いえいえ。じゃあね」
「はい、さようなら!」

 先輩は階段のある方向に歩いていった。
 私は姿が見えなくなるまで手を振った。
 すると、その行動が功を奏したようで先輩は
途中で立ち止まり、私に手を振り返してくれた。
 たったそれだけのことなのに、
私はとても嬉しくて。

今日の出来事を大切な思い出にしていきたいって
思えた。